みなさんこんにちは愛とロマンの男マーカスです。
ハウスメーカーや工務店、建設会社に「じゃ、設計を・・・」と依頼したみなさん、設計者がどのように設計を進めていくかご存知ですか? こと設計事務所の建築家に依頼したみなさんだったら、設計の専門職ですから前者よりもかなり詳しく、そのプロセスを目の当たりにされていると思います。
設計者はプラン作成のプロセスを公開することはしません。画家が制作段階の絵を頑なに見せないことに似ているかもしれませんね。
ですが、今回は特別に設計者(主に建築家)がお客様へご提案するプランを作成するまでに行っている作業をご紹介します。いったいどんなプロセスを経てプランが出来上がっていくのか、ブラックボックスと化していた内容にメスを入れていきましょう。 プランニングのプロセスやステップを知ることができれば、また違った見方で家作りを楽しむことができるかもしれませんよ。
エスキースを作成する
各設計者はいきなり図面を引くことはしません。間取りもなにも決定していないからです。
お客様のご要望は千差万別で、更に土地が持つ条件ですら一つとして同じものはありません。そんな環境に適合する建築物を設計するのは砂漠の中から針を探し出すことと同じくらい難しいものです。
そこで、設計者はどんな建物にすべきか、検討を進めていきます。検討といっても頭の中で考えるだけでは効率よく検討を行うことができません。だからといって、いきなりパソコンや平行定規を使って図面を引くことはしません。全体像も把握できず修正も難しいからです。
ではどうするのか。
エスキースというものを作成して検討を進めます。
Wikipedia より抜粋
エスキース(仏:esquisse)とは、スケッチのことであるが、語源的には、「下絵」を指す。日本では、建築や、環境デザインに関連する計画の初期にコンセプトや概念図等を簡易にまとめ、検討する際の資料作成作業も含むため、この行為全体をエスキース、またはエスキスと呼称している。
エスキースは設計者の頭の中にある思考を紙に描き出す作業とも言えます。方眼紙であったり無地の紙であったりカラーの紙であったり様々な紙に、すぐに消して修正できるよう鉛筆やシャープペンで描いていきます。
それは設計者にとってアイディアノートでもあります。建物の姿をスケッチしたり、思ったフレーズやアイディアを書き留めたり、納まり図をスケッチしたりします。この時点で既にコンセプトを決めて描いていくので、そういった意味でエスキースは設計図よりも重要な建築の要であると言えます。エスキースの時点で設計のほとんどが決まるといっても過言ではありません。
エスキースは設計者の頭の中にある思考を紙に描き出す作業で、その中でも特に重要なのが、平面図のエスキースです。
条件を整理する
エスキースを描く前に、まずはお客様からご提示頂いた諸条件を整理していきます。例えば
お客様からの提示条件
・キッチンはカウンターにしてリビングとつなげる
・和室は客間も兼ねたい
・トイレは二箇所必要
・吹き抜けが欲しい
・西日は抑えたい
・玄関には収納スペースがほしい
・玄関から裏動線を準備してキッチンパントリーへ行けるようにしたい
・一人になれる書斎スペースがほしい
などなど他にも盛りだくさんです。
また条件にはなかったことについても、よりよい住宅とするために設計者が想定し、練ったアイディアを提示していきます。例えば
設計者のアイディア
・ご主人の帰りが遅く普段、夕飯は一人で遅い時間に取るので、音が気にならないように寝室とキッチンは出来る限り離しておこう
・深夜に洗濯機を回すことが多いので、屋内でも物干しができるようにしておこう
・靴の数が多いので収納は多めに設定しておこう
・書斎では仕事以外にご主人の趣味部屋としても機能しそうなので、寝室やリビングなどとは離しておこう
・光が伸びて美しい空間となるよう、空間の繋げ方を工夫しよう
などです。
その他にも土地が持つ条件もあります。例えば
土地が持つ条件
・日が入りやすい方角は東面しかないので、東面に大きな窓をとろう
・北側が眺めがよいので、リビングなどは北側にも開くよう計画してみよう
・光が入りにくいので天窓を計画しよう
などなどたくさんあります。
法律上の条件もあります。例えば
法律上の条件
・高さの制限があるので、2階は斜線に接触しないよう注意しよう
・建ぺい率が50%しかないので、コンパクトにまとめる工夫をしよう
などなど他にも沢山の条件があります。
例では易しい条件を挙げましたが実際にはとても複雑な諸条件ばかりです。これらを整理し出来る限り全ての諸条件に適合するプランを作成しなくてはなりません。
もちろん、お客様のご予算内でという条件があることは言うまでもありません。
組み立てていく
デザイン
条件を洗出し、整理が出来たところでようやく平面図や立面図のエスキースを描き、組み立てていきます。組み立てる段階で無視出来ないものがあります。それは
デザインです。
デザインは重要です。建物はそのボリュームから町を形成する重要なファクターになり得ます。環境への影響も大きいですから、このデザインをないがしろにしてしまうと、わたしたちが住む町並みは大きく変わり果ててしまうのです。
海外の歴史ある都市を見てもわかるように、キレイに軒の高さが揃えられた町並みや建物の色を統一した町もあります。日本でいうと京都などの町家が建ち並ぶエリアでも、例外なく統一感のある空間が出来上がっています。デザインは個性を象徴する一方、町並みを形成するんだという視点をもって取り組まなくてはなりません。
このような例は極端ですが、一般的な地域においても周辺環境に溶け込むように且つ美しい建物を目指すべきでしょう。
窓の位置や窓の種類、建物の見え方や影の出来方、建物のカタチや高さ、色や設備類の位置、樋などの付属物について等あらゆることをデザイン性と天秤に掛けながら検討していきます。その過程ではもちろん、建築素材についてもある程度の具体的なイメージをもって選定をしておきます。
エスキースでは、デザインをまとめることを念頭に『平面図』『立面図』『断面図』をメインに描き、住宅を組み上げていきます。
構造
構造は主に以下の3種類に分類出来ます。
・木造
・鉄骨造
・鉄筋コンクリート造
住宅の場合は、例外はあるにせよ、ほとんどの場合が木造となるでしょう。
木造の場合には構造は基礎や土台に柱や梁といった構造材を組み合わせて建築していきます。エスキースを描き上げ行く段階で、この構造については大凡の方向性を設計していなくてはなりません。いくら良いプランを作成しても構造計画が未決定ではそのプランの実現は難しく、空想の建物に終わってしまうからです。
エスキースの段階で柱の位置や、梁の掛け方、耐力壁の位置やバランスを上手く組み上げ、且つ上記の諸条件をクリアしている必要があるのです。
確認し検討する
時間を掛けてようやく完成したエスキースですが、このままではまだ作図することは出来ません。諸条件を本当にクリアしているのか確認する必要があります。 条件だけではありません。お客様へご提案出来るプランであるのか。自ら作成したプランの中を頭の中で何度も何度も歩いては修正し、デザインや空間の繋げ方、見え方、それに実際の使い勝手などあらゆる方向から検討していきます。
時には、設計者自らの中で葛藤を繰り返し、納得できずに全てを白紙に戻し、ふりだしに戻って構築し直すこともあります。いや、ふりだしに戻って何パターンも検討することのほうが多いと言えるでしょう。
修正する
ようやく確認し検討作業が一段落を終えると、それらを修正しなくてはなりません。修正は単に不都合な箇所を治すだけではありません。修正することで、想定外の問題が新たに巻き起こったりすることがよくあります。
「ここを、こうすると…うまくいった! …でもこっちの使い方がよくないな。じゃこれをこうして、あれがこうで… あ”ああぁぁ… もう一度やり直しだ」
「うまくいったゾ! でも条件を踏襲するあまり、想定外のボリュームの建物になってしまった!予算的にも実現は難しいだろう。もう少しコンパクトにまとめなくては!」
こんなことを繰り返しながら、ようやくひとつのカタチを紡ぎ出しくのです。
設計者の知恵と労力と愛情
いかがでしたか?設計者は、これらのことを同時に進めていきますので、ある意味センスが問われます。組み立て方は、それぞれの設計者のロジックによってバラバラですので、ここで挙げた方法や流れはほんの一例に過ぎません。
一流の建築家ともなれば、不思議に思えるほど、バラバラだったピースをビシっと当てはめ、且つ美しく素晴らしい建築物を作り上げていきます。そんな彼らには施主であるお客様や工事を請け負う建築会社など、皆を一つにまとめあげるカリスマ性が見て取れます。 きっと、余程の場数を踏んできた経験と努力、そして天性の才能がそれを可能にさせるのでしょう。
どんな形態に所属している設計者でも、このようなプロセスを経過すると思われます。 建売住宅ではない注文住宅であるからこそ、皆の知恵と労力と愛情が詰まった素晴らしい住宅が出来るのです。
プレゼンを経てブラッシュアップを重ねる
最後に、エスキースを清書したり、プランボードに編集したりしてお客様へお見せ出来るカタチ(プレゼン資料)へとまとめていきます。
イメージパースを起こす会社もあれば、模型を作成する設計事務所もあります。 考え抜いたプランの魅力を余すこと無く伝えたい。そんな思いで臨んでくるはずです。
きっと最初の打ち合わせでは、変更や修正がたくさん出てくることでしょう。
ですが、それも時間を掛けて作成したファーストプランがあってのこと。決してムダになることはありません。大きく変更を余儀なくされることも多くありますが、それも次ステップへ上がるために必要なプロセスだと思います。
「せっかく描いてもらったから」とお声かけいただくだけでも、われわれ設計者は嬉しいのですが、どうぞご遠慮なさらずにご希望内容をお伝え頂ければと思っています。
一番残念なのは、検討も十分にされないまま、変更希望もお伝え頂かないままに、お断りされることなんです。
最初のプランが希望に沿わなくても、設計者の情熱を感じてもらえさえすれば、その後ブラッシュアップを重ねることで必ず良い家になることと思います。
長くなりましたが、今日はこんなとこ!おしまいっ
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