みなさんこんにちは愛とロマンの男マーカスです
新築の住宅を計画、もしくは設計中のみなさん「玄関」について考えたことはありますか?
靴を脱ぐだけが玄関だと思ってはいないでしょうか。もちろん、靴を脱ぐことは家に入るために大切なことですし、お客さんを迎え入れる場所でもあります。屋外と屋内をハッキリと分ける役割もあります。
ですが、それだけではありません。住宅の顔である「玄関」を上手に計画することは家全体の雰囲気や質を向上させることに繋がります。玄関一つで住宅の印象がガラリと変わってしまうのです。
上手な玄関を計画することができれば、住宅づくりの成功に一歩近づいたと言って良いかもしれません。
そこで、今回は玄関について少し考察していきたいと思います。
玄関の起源
諸外国では「靴を脱ぐ」という文化にあまり馴染みがないということは、みなさんご存知のとおりです。
これ何故だと思いますか?
日本の気候は「高温多湿」なので、特に地面からの湿気を嫌う傾向にあります。
「高床式」という建築文化があったように、通気を良くすることが必要だった日本は地面と床とを切り離して考えることが普通となっていました。 床を上げて作るので、そこには必然的に段差ができます。この段差を玄関として利用し始めたことが起源のようです。
足の蒸れや細菌の発生を抑える
ではなぜ日本人は、段差である玄関で靴を脱ぐのか。それは多湿という気候から履物を履いていると足が蒸れやすく、不潔だからです。
細菌の発生や匂いのもとになる「蒸れ」 これを抑えるために日本人は靴を脱ぐ文化が定着したと言われています。
それに言われなくても、「地面の土や雑菌という汚れたものを屋内に持ち込まないようにするため」という理由もあります。
土間と上り框
昔の家はたたきのような土間があり、少し奥まったところに上り框がありました。 家の中に招き入れるのではなく、上り框のところに腰掛けて地域のコミュニケーションを促すようなつくりとなっていました。
この時には、玄関が「境界」の役割を既に担っていたようにも思えます。
土間部分が、外と中をつなぐ中間領域のような存在だったと言えます。これも合わせて「玄関の役割」であったと言えるでしょう。
現代の玄関のあり方
ところが、現代の住宅において玄関というものは大きく変化していくこととなります。
玄関扉は、ガラガラの引き戸から、気密性能を重視した扉となりました。
土やたたきのような土間空間は排除され、靴を脱ぐスペースとしてのみ機能するようになります。
上り框の高さはどんどん低く抑えられ、マンションでは10センチ未満というところも少なくありません。
欧米のように、外と中の境界線がなくなりつつある そんな風潮が色濃く見られるようになりました。
昨今の住宅全体の省スペース化で、玄関はますます小さくなり「コミュニケーションの場」であった性格はなくなってしまったような気がします。少し寂しいですね。
玄関は住宅の顔
しかし、現代においても「玄関は住宅の顔」であることには変わりありません。どの時代においても、人は玄関を通じて室内へ入るのです。
ですから、この玄関部分を広々と明るく健康的に作ることは絶対的に重要なことだと思います。
戦後間もなくの日本は、経済状況の悪化から良好な住空間をつくることが難しかったせいもあり、「暗い」「狭い」「汚い」の流れを近年まで引きずってきました。
ですが、時代は大きく変わろうとしています。
玄関に部屋の機能をもたせる
「玄関」は靴を脱ぐ場所。「リビング」は一家がくつろぐ場所。「ダイニング」は食事をとる場所。という概念はもはや古いのかもしれません。
玄関を広くとり、靴を脱いで廊下へと入るという単一動線を疑ってみるスタイルが増えつつあります。
玄関は住居内で唯一、靴で移動できる場所です。
近年のアウトドアブームもあり、アウトドア用品を玄関に置くケースも増えてきているようです。
趣味の自転車を整備したり、キャンプ道具を手入れしたり、子供たちの遊び場になってみたり…。
家の中では決して出来ないようなことが、玄関では出来る場合があります。 靴を履いて行うことが、新しい刺激になり生活環境の変化をこの玄関で生み出す人々がたくさんいるのです。
イスやベッドという欧米の良い文化をこの広い玄関に取り入れ、日本人の清潔で几帳面な良い面を奥の諸室などで、謳歌するあたらしい住居様式が生まれているのではないかとも思うのです。
今はまだ、土間部分に自転車を置いたり薪ストーブを置いたりした空間に、くつろぎのためのソファを置いて第二のリビングとしての利用程度に留まってはいます。しかし、この多機能文化が進化していくとやがて、クルマなどを宅内に入れ、ガレージ兼リビングや庭兼リビング、はたまた庭兼キッチン・ダイニングのようにいろいろなカタチが生み出されるやもしれません。
玄関は靴を脱ぐという既成概念に囚われず、歴史に縛られすぎない自由な発想が、我々の住む「現代」という世界とも言えます。
我々建築関係の人間は、多様化するニーズに、柔軟に対応する適応能力(設計術)が求められる難しい時代に突入したんだという実感を持つ必要があるということですね。しかし、難しいとは言え空間を作ることはとても楽しいことですから、まずは興味をもっていろんな新しいことにチャレンジすることが何よりも大切だということは、揺るぎない真実だと思います。
見通しの良い玄関
とは言え、そこまで特異なことをスタンダード化するのが必ずしも良いわけではありません。
省スペース化はますます深刻化する流れですから、空間と空間との繋がり方を上手くデザインし、個々の空間に「伸び」を作ってあげることが求められると思います。
その手法として有効なものが「見通し良い玄関」です。
玄関扉を開けて、小さな玄関ホールだけの玄関にみなさんは遭遇したことはないでしょうか。その玄関からは室内の様子などを伺うことすら出来ません。暗くて狭い…いかがですか?
実際、きっと9割近い住宅がこのようなスタイルでしょう。
みなさんはどのように感じるでしょうか。もうすこし広々とした玄関だったら、いろいろ飾ってオシャレにして気持ちの良い玄関になるのになぁと思ったことありませんか。実際には広く出来なくても、広いと感じる工夫をすることで、全く違う建物になることが出来ます。
そのためにも、「見通しの良い玄関を計画すべき」だと思います。
間取りを工夫して、窓辺の向こう側に庭が見えるように計画するのも良いでしょう。
リビングの一部分や書斎の一部、天窓からの光を入れた吹き抜けを作ることも良い案です。
多少のコストが掛かっても、毎日を気持ちよく過ごすために、人生の大半を過ごすことになる空間を健康的で良いものにすることは金額以上のメリットがあると思います。是非検討してみてはいかがでしょうか。
玄関収納をつなげ回遊性をもたせる
一昔前から、玄関に「玄関収納」を計画することがスタンダードになりました。
ベビーカーや、釣り道具、長靴や道具箱、自転車やカート、それにコート類なんかもまとめて収納でき、非常に便利です。
ここにもうひと工夫を施すと、玄関が広く感じられ、家全体が広々とした開放感に満ち溢れます。
それは「回遊性をもたせる」ということです。
簡単に言うと、玄関収納を収納としてだけでなく通路としても機能させようというものです。
例えば、玄関収納に入り、更に奥はパントリーに繋がっている。そして更にキッチンに繋がっている、という具合に「補助動線」を作ってあげるんです。
こうすれば、玄関収納がただの収納だけではなく、第二の玄関にもなります。
キッチンの裏動線にもなるので勝手口と呼んでも良いかもしれません。
脱いだ靴などで煩雑になりがちな玄関も、こうやって家族専用の玄関を作ることが出来れば、突然の訪問客に対してもいつでもキレイな玄関でお迎えすることが出来ますよね。
大きめの窓を設ける
玄関だからという理由で小さな窓を付けていませんか?もしくは全く窓がない玄関になっていませんか。
少しでも外の空間を取り入れて、圧迫感を軽減させることが気持ちの良い玄関を作るためには必要です。そのために是非、大きめの窓を取り付けましょう。
防犯上気になる場合や、外界からの視線などが気になる場合は、ルーバーなどを取り付けたりして外観のアクセントとしても良いでしょう。地窓やハメ殺しの窓にすることも有効です。
可能であれば、掃出し窓を設置して坪庭などと思いっきり繋げてしまうととても良いかと思います。
玄関引き戸を計画する
玄関は昔はガラガラの引き戸が多かったと書きました。それが気密性を重視して扉に変わったとも。
ですが、最近、また引き戸が注目を浴びています。引き戸には大きく分けて「引違い」と「片引」があります。
「引違い」は2枚の建具を並べて左右どちらからとも開けられる引き戸のことです。一方、「片引」は一方方向へ一枚の戸を引いて開ける引き戸です。どちらも一枚分の有効開口寸法なので、実質的には大きな違いはないようですが、明るさで言えば、引違いの方が2枚の戸を使用出来る分、有利かもしれません。
しかし、片引であっても袖にガラスを埋め込んだ仕様も各種メーカーが発売しています。建築家やオーダーで制作する工務店などでは、もっと自由な発想で明るい玄関引き戸を計画する場合もあります。
いずれにせよ、扉よりも、開け放つことが出来る引き戸の需要が高まってきているようです。
上り框の下に空間を作る
昔のように、人が腰掛けられるくらいの高さまで段差を付けることが少なくなった昨今の住宅スタイル。普通では20センチ前後、どうかすると10センチ程度まで低く作ることも少なくありません。
この上り框の作り方を工夫して「框は薄く」、「框下の空間は奥行き深く」作ると良いです。
これは、浮遊感を演出することで框が軽快に見え、玄関全体がシャープで引き締まった印象を与える効果があります。
また框下空間を25センチ以上とることができれば、普段使いのスリッパなども入れることが出来るので、玄関土間を常にキレイな状態に保つことも可能です。
さらにここにLEDなどのテープライトを仕込むと尚良いです。 玄関は天井にダウンライトを取り付けるだけに留まっている住宅が後を絶ちません。上からの光よりも低い位置からの光に私達人間は「安心感」と「やすらぎ」を感じますから、ゲストをお迎えする玄関には、最適な照明手法と言えます。
コート掛けは必須
みなさんは、外に着ていったコート類などのアウターをどうしていますか?
そのまま、クローゼットに仕舞い込んでしまうのも抵抗がありますよね。花粉や雑菌などが付着しているかもしれませんから。
かといって、毎度着るたびに洗うわけにはいきません。
和室や寝室に脱いだものを置いたり、別のコート掛けを購入したりして対処していないでしょうか。
そうならないためにも、玄関先にはクローゼットとは別に専用コート掛けのスペースを設けましょう。
小さな片引き扉程度のスペースで構いません。もしそれが難しければ、玄関収納の中に用意しても結構ですから、是非用意しましょう。かならず必要になると思います。
靴脱スペースに一坪、玄関ホールに一坪はもう古い
一般的には靴脱スペース(土間)に一坪、玄関ホールに一坪程度を計画します。(これよりも小さなスペースの玄関は往々にしてあります)
しかしこれはもう古い基準だと思います。この坪換算でスペースを割り出すあたりが、スペースの兼用化を妨げている原因であるからです。
上でも述べたように、玄関は省スペース化しても多機能をもたせてもっと広く作るべきです。
たしかに靴を脱ぐだけとしては十分なスペースかもしれません。ですが、余裕のない窮屈な住宅を印象づけてしまいますよ。
小さな収納棚(シェルフ)を置く
玄関はかつてコミュニーケーションの場であったと書きましたが、現代において全くコミュニケーションがなくなったかと言えばそうではありません。
郵便物や宅配物、それにゲストを迎えたり、帰りを見送ったりとまだまだコミュニケーションが絶えたわけではありません。
コミュニケーションがある以上、サインをするスペース、印鑑を押すスペース、お土産を渡すスペース、買い物袋や荷物を置くスペースなどが必要になります。
そのためにも、小さくても構いませんから数足程度が収納できる靴収納(シェルフ)を準備しましょう。棚の上では、サインや印鑑も押せますし、お花などを飾ることも出来ます。
腰掛けられるベンチを作る
そして、靴を履いたりするために腰掛けられるベンチを設けましょう。お客様は立っているのに、自分はホールに座っているなんていうのも不思議な光景です。
『もしよろしければ、ちょっとお掛けになってはいかがでしょう』 と一言添えるのもおもてなしの一環ではないでしょうか。
玄関土間は掃除がしやすい建材で仕上げる
玄関土間は汚れやすいです。雨の日などは、とくに泥なども付着したり濡れたりしますので注意が必要です。
ほうきで掃除したり、雑巾などで拭き掃除が出来る建材で仕上げることが良いかと思います。
しかし、滑りやすくてはいけませんから、お風呂で使用するようなタイルやツルツルの石などを使用することは出来ません。
雨に濡れても滑らないものが前提です。
近年ではタイルに留まらず、モルタルなどを金コテで磨いて仕上げる「左官仕上げ」もシンプルで好まれる傾向にあります。
小さなクラック(ひび割れ)は発生しますが、クラフト感があり若い方々を中心に広がっている仕上げ方法です。
中にはモルタルの中に墨を混ぜて、黒くしたモルタルを使用するデザインもあります。泥などの汚れが目立ちやすくなるので、逆に掃除の目が行き届いて常に清潔に保つことが出来ると言われています。
最後に
いかがでしたか。
玄関だけでもこのように考えられることはたくさんあります。ここに書ききれない程にまだまだ沢山の手法はありますが、計画時にはこのくらいを基本に進めていけばきっと良い玄関が作れるのではないでしょうか。
要は、「玄関は住宅の顔」であることを忘れないで計画するということが大事だというわけですね。
自分たちだけではなく、おもてなしの心を玄関に込めることが出来れば自ずと使いやすい玄関になると思います。
ここまで読んでくださったみなさん、本当にありがとうございました!
今日はこんなとこ!おしまいっ
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